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第二十七話 新たな希望②

last update Last Updated: 2025-07-24 17:31:53

 宇随たちが待つ屋敷へ到着した二人は、仲良く手を繋いで屋敷の門をくぐる。

「おう、ご両人、見せつけてくれるぜ」

 玄関の入口に立っていた宇随が二人を笑顔で出迎える。

「宇随さん!」

 雛が嬉しそうに笑いかけると、隣に寄り添う神威も柔らかな笑顔を見せた。

「わざわざ待っていてくれたのか?」

 幸せそうに寄り添いながら、手を繋いだ雛と神威が宇随に近付いていく。

 二人の仲良さそうな姿に、宇随が不機嫌そうな表情を浮かべた。

「なんだよっ、あーあ、つまんねえ。

 おーい、楓太!」

 宇随が大きな声で呼ぶと、屋敷の中から足音がこちらへ向かってくるのが聞こえた。

 次の瞬間、玄関から飛び出てきた楓太が一目散に雛に抱きついた。

「おかえりなさい!」

 嬉しそうな楓太の姿に、雛も嬉しくて顔をほころばせる。

「楓太君、ただいま。ごめんね、心配かけて」

「あ! てめえ、雛に抱きつくな!」

 宇随が慌てた様子で、楓太を雛から剥がそうと試みる。

 すると神威が宇随の頭を殴った。

「阿保、子ども相手にムキになってどうする」

「いってー、手加減しろよ!」

 大袈裟に痛がる宇随を無視し、神威は雛にくっついている楓太を真っ直ぐ見据えた。

「な、楓太。おまえももう十四なんだから……わかるよな?」

 神威は終始笑顔だが、目が笑っていない。

 恐怖を感じた楓太は雛から急いで離れた。

「ご、ごめんなさい!」

 怯えながら謝る楓太の頭を優しく撫でながら、神威が笑顔で頷いた。

「さ、こんなところで立ち話もあれだし、中へ入ろう」

 神威はさりげなく雛の腰に手を回すと、宇随と楓太を見て微笑む。

 『雛は俺のものだから手を出すなよ』と神威の心の声が聞こえてきそうだ。

 二人が屋敷の中へ入っていくと、宇随と楓太が顔を見合わせた。

「これからは、気をつけましょう」

 楓太がそうつぶやくと、宇随は肩を落とし残念そうに頷い

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